ピロリ菌、ハングル活字、電車広告

ついに10月は、このブログを一度も更新できなかった。当初、月二回をめざしていたのが、だんだんと月一回ペースになり、一年半の先月はゼロ。もたもたしているうちに自宅で使っているMacBookがこわれてしまった。液晶画面がだめになっただけで、データは大丈夫なようだが、こいつがないと家でブログが書けない。手書きで原稿が出来ない。キーボードでないと長い原稿が書けない。日記やアイデアのノートはペンである。メモ程度だからそれは苦にならない。iPhoneでテキスト作りを試したが、まどろこしくてあきらめた。
伊野君は週一回、火曜日に更新をつづけている。みならいたい。彼のブログ精神は「とりあえず更新することだけが目的のブログです」。それでも毎回ちゃんとおもしろい。とてもかなわないが、目標は彼だ。みなさん、伊野君のブログを毎週見てる?

 

春の定期検診の内視鏡検査でピロリ菌が見つかって、7月に抗生物質で退治した。アジア系のひとは特にピロリ菌に感染していることが多く、胃かいようや十二指腸かいよう、胃がんの原因になるらしい。

 

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かかりつけの医院で、呼気を採集してピロリ菌をもう一度検査する。結果は、やはりピロリ菌がいる。三種類の薬を一日二回、一週間つづけて除菌した。ひとによっては味覚障害をおこすことがあるというので、薬を飲むのをためらっていたらドクターに叱られた。なんとか薬を飲み終わり、そのあとの検査でピロリ菌はいなくなっていた(失敗するともう一度除菌をしなくてはならない)。一週間の除菌の間は禁酒。こんなに長くお酒を飲まないのは多分はじめてだ。しばらくしたら胸焼けをするようになった。胸焼けなんてずっとなかったのに。お医者さんにたずねたら、ピロリ菌はアンモニアを出して胃酸を中和している。それがなくなって、たまに胃酸が多くなるひとがいる。私はそれだという。

 

週刊文春9月24日号の鹿島茂さんの「私の読書日記」でピロリ菌のことを書いた本が紹介されていた。
〈マーティン・J・ブレイザー『失われてゆく、我々の内なる細菌』(山本太郎訳 みすず書房 3200円+税)はパラダイムの大転換を我々に強いる本年屈指の重要作である。
マイクロバイオーム(人間との共生関係にある微生物の群系)研究の第一人者である著者はマーシャル&ウォレンのピロリ菌に関する発表を聞き、ハワイの日系人研究者と連絡をとりながらピロリ菌が胃がんと深い関係があることを発見、これを学会で発表した。自身を調べたところ陽性反応が出たので抗生物質を飲むと、六カ月後、食後に胸焼けを感じるようになった。胃食道逆流症である。これは次の段階として食道がんを引き起こす。食道がんはこの三十年で六倍に増えている。著者は抗生剤の副作用として胸焼けがあることを知っていたので、ピロリ菌抗生剤の影響ではないかと疑って調べたところ、ピロリ菌を持たない患者は保菌者に比べて胃食道逆流症を発症する確率が二倍であることが判明。「私たちは、病原菌として発見されたピロリ菌が両刃の剣であるということを発見した。年をとれば、ピロリ菌は胃がんや胃潰瘍のリスクを上昇させる。一方で、それは胃食道逆流症を抑制し、結果として食道がんの発症を予防する。(略)一方、食道腺がんの割合は上昇する。古典的な意味でのアンフィバイオーシスである。」〉

 

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えー、そうだったの。この書評を読んでびっくり。アンフィバイオーシスとは、amphibiousのことか。この本を読みたいのだが、ジャケットが気味悪いのでなかなか手がだせない。この回では、同時に前川久美子『中世パリの装飾写本ー書物と読者』が紹介されている。これは書店で見かけてほしいと思っている本。鹿島さんはこう書いている。
〈装飾写本を駆逐した活字本が同じ運命を辿ろうとしている現在、この複合芸術を再評価すべき時が来ているようだ。入門書にして決定版という希有な一冊である。〉

 

失われてゆく、我々の内なる細菌

 

中世パリの装飾写本ー書物と読者

 

『ハングル活字の誕生』劉賢国著/上製/HONGSHI刊/本文155mm×225mm(A5判より一回り大きい)/632頁(分厚い。1.2kgもある)来年には日本語版を刊行する予定。

 

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友人の劉賢国さんが『ハングル活字の誕生 1820~1945』を韓国で出版した。彼の20年間の研究の成果である。小宮山博史さんが序文を寄せている。

 

〈劉賢国の大冊『近代ハングル活字の誕生』はそのような活字をめぐる状況をみごとに捉えている。4部14章からなる韓国初の近代活字史研究として世に問う労作である。〉
〈東アジア三ヵ国の活字史研究は活字の開発史がその中心になっている。しかし活字は組まれて始めて効果を生むのであることを念頭におけば、どのような理由でその書体様式・組版形式が形作られたのか、その評価と将来への展望というタイポグラフィ研究・分析が必要不可欠であるが、現実にはなされることは少ない。劉はその欠陥をじゅうぶんに理解したうえで、本書は活字史とタイポグラフィを等価としてとらえ、開発された活字とそれが組まれた結果を論じている。この展開は東アジアにおける活字史研究の試みとして特筆されてよい。〉

 

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左「イエス聖教聖書 ルカの福音書」(1884年)三号活字
右「イエス聖教典傅書」(1887年)三号活字

 

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韓国版「天路歴程」(1895年)

 

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左「聖教直解」(1892年)
右「日韓英三國對話」辞典(1892年)大阪・岡本寳文館刊 六号活字

 

「エフォートレスな黒」とは何なのだろう。effortless black。そんな英語あるのかな。調べてみた。エフォートレスな黒色ではなく、エフォートレス(リラックスした)な服装(ファッション)の黒なんだ。「エフォートレス・シック」なんて言葉もある。これくらいの英語の形容詞が、女性雑誌の読者たちには普通なのか。あるいは知らずに使っているのか。下に〈最愛「黒」はエフォートレスに着るほど新しい〉なんてコピーがある。「エフォートレスに着る」というのは「楽に着る」ということなんでしょうね。辞書を作っている人たちは、この「エフォートレス」を採集したでしょうか。

 

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「駆け込み乗車はやめましょう」。これはとても駆け込みには見えない。ドアから脱出しているのでしょう。非常口のピクトグラムに似ている。駆け込みにするのか、ドアに挟まる絵柄にするのか。どちらにしても、ピクトグラムの形を工夫しないといけない。アイデアの練り込みが足りない。

 

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仕事場の近くにある、細川家の本邸だった新江戸川公園の庭を改修工事をしている。しかし「直しています」というのは、その通りなんだけれどなんとも直裁な言い方。

 

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ムダ毛とは何ですか。人間に無駄な毛があるのか。温泉に行くのにムダ毛があったらどうしてだめなんだろうか。しかも、ハートのなかにキャッチコピーがあるのはどういう意味? わからない広告。

 

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一行目の細い雨だれ(エクスクラメーションマーク)はスラッシュかと思った。よく見たら感嘆符だった。日本人はなぜ斜めの「雨だれ」が好きなんだろう。手書きの名残なんだろう。びっくりマークはまっすぐでいい。

 

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来週の水曜日11月18日(28日まで)から、人形町ヴィジョンズIllustrators’Galleryシリーズ第4回が始まる。9月の伊野孝行君、大河原健太君の「わたしと街のものがたり その1 神保町とロンドン」につづき、「わたしと街のものがたり その2 名古屋と光が丘」である。
絵を描くのは、丹下京子さんと小田佑二君。ふたりとも張り切ってたくさん作品をしあげています。ぜひご覧ください。
22日(日)のトークショーは、前回も好評で満席になった関川夏央さんと大竹昭子さん。二人の絵描きさんといっしょに、名古屋と光が丘の街のお話をしていただきます。みなさん、おいでください。

 

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今日の一曲は
Don’t Let Me Be Misunderstood/Nina Simone