花森安治 その1

門坂流さんが亡くなった。同い年だ。彼とは大阪の同じ高校(私の二つ目の高校)の美術部で出会っている。私はすぐに一年前と同じで、学校に行かなくなりそのまま退学したから、門坂とはそれきりになった。たぶん今から10年前くらいだ。HBギャラリーの誰かのオープニングで彼から声をかけられた。彼は小島武さんと一緒だった。「あの日下君でしょ」。彼は部室のかわりの教室でデッサンに励んでいた自分の横で、デザインの練習をする私を変な奴だと思ってよく覚えていたのだ。その日、声をかけられるまで何も覚えていなかったが、説明されてかすかに遠き日の教室がよみがえってきた。

 

門坂の絵で今でもはっきと覚えているのは、「ワンダーランド」から誌名が「宝島」に変わったときの、片岡義男さんの「ロンサム・カウボーイ」の挿絵だ。それがデビューだったらしい。同じ片岡さんの単行本『町からはじめて、旅へ』(1976)のカバーのサーフィンの絵も彼だ。

 

ところで、今回は花森安治だ。いつもの「タイガーブックス」が探してきた本が5冊ある。
『青春の回想』津村秀夫著/文明社(1946)
『満月』船橋聖一著/大元社(1947)
『編集者の発言』池島新平著/暮しの手帖社(1955)
『本棚の前の椅子』福原麟太郎著/文藝春秋新社(1959)
『チロル案内』津田正夫著/暮しの手帖社(1968)
『貝のうた』沢村貞子著/暮しの手帖社(1978)

 

小学生のころから、夏休みには東京で歯科医をしていた祖父のところに行く。中学生になった私は、そこで「暮しの手帖」を見つけた。カッコいい雑誌だった。患者さんの待合室においていたのだろう。祖母の好みだったのかもしれない。それで大阪に戻ったら母にねだって、定期購読をしてもらった。雑誌のデザインよりは、商品テストの手法が子供の目に新鮮にうつった。その頃は季刊で、68年から隔月刊。

 

101号で判型が大きくなってからは、だんだん興味をなくしていった。大味で派手な感じがした。表紙が花森の絵になったので、それに馴染めなかった。すごく変わってしまい退屈な印象を持った。デザイン事務所に勤めたあとだったので、モダンデザインからは古くさく見えたのかもしれない。

 

それが、いま花森安治のブックデザインを見ると、とても面白い。

 

『青春の回想』
 

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48年の「暮しの手帖」創刊の前。カバーなし、表紙のみ、グリーンとスミの2色刷り。表紙にはチリがあり、本文より天地、小口側とも1ミリ出ている。並製。本文は120mm×182mm(B6変形)、160頁。ノンブルは本扉とその裏の2頁は入っていないで、目次からはじまる。目次は1頁。

 

見返しは表2側は表紙に貼付けず見返し紙どうしが貼付けられて袋状、表3側は表紙に貼付けられていて通常の見返しの状態。これは製本のミスか。

 

別丁扉は薄い紙で、茶色1色。表紙と扉の絵は木版画調。タイトルは描き文字である。別丁扉のあと、活字でタイトルのみの本扉、三号字間全角アキ、裏白。続いて目次1頁。奥付の検印に洒落た木版画調の絵。奥付に〈装釘者 花森安治〉とある。

 

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表紙の背のタイトルは、文字をひとつずつ枠にいれて、交互に色を変えているかわいらしいデザイン。表1と表4に同じ本の絵だが、向きが違っている。反転ではなく二点は別に描いている。別丁扉はオルガンの絵。本文は活版。

 

『満月』
 
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これも前出同様にカバーなし、表紙のみ。並製。3ミリか2ミリのチリあり。本文125mm×180mm(B6変形)、278頁(目次は見開き2頁で、ノンブルはなんと目次左から数えている)。表紙は4色だが分解ではなく、分版した絵。タンスの上にタイトルはもちろん描き文字。

 

表1の絵は和箪笥の上に蓋付きの鏡、ランプ、ウィンザーチェア風の椅子、花柄のカーテン。表4は椅子と黒の囲みのなかに花をあしらった社名。背にも花柄。見返しは屋根と物干し台。別丁扉は櫛と櫛入れ。

 

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見返しは薄い紙に1色の絵。表紙、見返し、別丁扉、目次の絵ともに〈H〉のサインあり。花森のイニシャルか。目次扉に、〈目次〉と大きな文字。目次は子持ち罫で囲んである。本扉はなし。本文は活版。目次裏に〈装釘者 花森安治〉とある。

 

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『編集者の発言』

 

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これは「暮しの手帖社」の単行本。私が最初に手にした、ちょっと古い花森装幀本。上製。カバー装、カバー4色。表紙は紺の布。本112mm×174mm、小B6判。332頁(ノンブルに目次4頁は、はいっていない。第I章の扉からはじまる)。カバーの袖は極端に短い。43ミリほど。

 

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見返しはうすく柔らかいグレーの紙。別丁扉は濃いベージュの格子の透かしのある紙に、活字でタイトル著者名、社名が同じ大きさの二号。目次は本文の天に揃えてある。4頁としては項目数が多いのでかなりぎゅう詰め。目次のノンブルは大きい。目次4頁目下に〈装本 花森安治〉。本文版面は天をあけて、地のほうが短い。本文は活版。

 

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カバーと背には、クレヨンで鉛筆が描かれている。この鉛筆の絵がよい。タイトル著者名ともに手描き、その文字が大きくないのが上品で気持ちよい。カバー表4に社名、これも手描き。これは真似してみたい。奥付は子持ち罫で囲んである。見慣れた「暮しの手帖社」の奥付のスタイル。

 

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長くなるので続きは、次回に。残りの三冊と花森安治に関する本のことを書きます。

 

今日の一曲はこれです。Bartender’s Blues/James Taylor