花森安治 その3

さて、いつも最後に書いている今日の一曲というのは、親友の金森幸介君の日記みたいなフェイスブックと森英二郎さんのブログ〈MEXOS-HANAXOS〉にならってます。ちょっとしたDJ気分でしょうか。自分の好きな曲、私も書いてみたいだけ。

 

このブログで花森安治のことばかり続けるわけにもいかない。もう、そんなに材料はないし。昨日、親しいひとから花森の〈3〉も書くのかときかれた。私がお世話になっている、若い指圧の先生はこのブログを読んで、花森安治のことをおもしろがってくれた。彼女は神戸市灘区出身で、同じではないが、花森安治の卒業した雲中小学校や長田高校(元神戸三中)をよく知っていて親しみがわいたらしい。

 

言い訳になるが、これらは花森についての個人的なメモのようなもの。私はコレクターじゃないので、彼の本の実物に多く接しているわけではない。研究するつもりもない。たまたま手元にある本で、彼のデザインを気に入ったものがあったから分析してみたくなった。

 

花森安治の本と彼の同時代のデザインと比べてみたい。それをこのつづきに書くつもりだったけれど、長くなってしまうのでいつかそのうちやることにする。

 

花森の本をとりあげるので、途中でほったらかしていた津野海太郎さんの『花森安治伝 日本の暮しをかえた男』(新潮社刊/平野甲賀装幀)を読了。私は津野さんのファンだが、この評伝では私が知りたかった、花森の絵やデザイン、装幀、編集技術についてを詳しく知ることはできなかった。それはこの本の目的ではないのだろう。花森安治についての本は、なんだか武勇伝的な側面がある。彼の外見と言動かな。

 

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『花森安治伝』の最後の第十四章と、あとがきからの抜粋。

 

〈花森は直訳式の漢字語のツジツマ合わせみたいな理論が苦手だった。もともとそういうたちだったのだろうが、とくに戦後は、他人があみだした理論やイデオロギーにしばられ、ながされることを意識して拒むようになった。〉

 

〈いつも自分の体験から出発して考え、ひとりでたどりついた結論を平易な文章でズバズバとしるした。そのぶん口調や文章は体臭がこく、ときに感傷的で、ちょっとうるさいとすら感じられる。しかし「商品テスト入門」などが典型的にそうであるように、しばしば鍛錬された地頭(じあたま)のおどろくべきつよさをしめす。〉

 

〈大小の差はあれ、ひとつの集団が共通の目的(宗教的、政治的、社会的、芸術的など)を実現するために行動する。それが運動である。しかし『暮しの手帖』の運動はついにそのような意味での集団にはなりえず、あるいは集団になることを拒み、けっきょく花森個人の運動として終始した。〉

 

〈花森安治という異形の編集者の個人的な運動としての『暮しの手帖』〉

 

〈大きなガマみたいな顔にチリチリ・パーマをかけた花森の迫力ある風貌〉

 

〈毎号、実名や匿名でおびただしい記事を書き、イラスト、描き文字、写真撮影、レイアウト、はては新聞広告や電車の車内吊り広告にいたるまで、なんでも自分ひとりでやってしまう。この点だけをとってもみても花森安治は並の雑誌編集長ではなかった。〉

 

〈近代日本の出版史を見渡しても、こんな雑誌編集長、かれ以前にはいなかった。いまもいない。おそらくこれからもそうなのではないか。〉

 

そう、この本を読みながらつねに感じたことがこれで、そしてこのことが私には不思議でならない。花森安治はデザイナーで絵が描けて編集者だった。わたしにはそれがすごいことだと思える。だが、それはそんなに珍しいことなのか。そんなひとはいないのか。でてこないのか。私が知っている範囲では、南伸坊さんがそれに近いような気がする。

 

デザイナーなら絵が描けるはず。ふたつはクリアー。編集者なら絵は描けるか。デザインはできるか。この二つをできるひとはいるか。デザイナーなら編集もできるはずだが、そういうひとはいるか。どうしてデザイナーに編集はまかされないのか。やらないのか。編集者はどうして絵を描かないしデザインもしないのか。現代なら、あのゲルハルト・シュタイデルがそうだ。彼は印刷機も持っている。彼はデザイナーから始めている。ひとりで何もかもやってしまう。

 

〈戦後の日本で花森安治がなしとげたことの大きさにくらべると、これまでかれの人と仕事に向けられた私たちの関心は、かならずしも十分に大きくはなかった。理由はいくつも考えられるが、私は、花森が自分の仕事について積極的に語ろうとしなかったこと、それどころか傍目にはかたくなに口をとざしているように見えたことが、あんがい大きかったのではないかと思う。〉

 

花森安治についての私の謎はとけなかったが、この本はみんなにぜひ読んでほしい。特にイラストレーションやデザインをこころざす人たちに。この本をもとにNHKあたりがドキュメンタリーをつくらないものか。いまこそいい時期ではないか。

 

もう一冊、『花森安治の仕事』酒井寛著(暮しの手帖社刊/安野光雅装幀)もおすすめする。この本の最初の章「編集長の二十四時間」は、昨年、阿佐ヶ谷美術専門学校のタイポグラフィの授業の〈読書レポート〉のテキストに使わせてもらった。

 

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今日の一曲はこれです。A Song For You/Gram Parsons