クローク、TIME、ちくま、西村ツチカ、檀蜜、出久根さん、年賀、金森幸介
〈美術館にクロークをお願いします〉
ルカス・クラナーハ展の国立西洋美術館内で見た看板。日本の美術館には、なぜ、海外では当たり前のクロークがないのだろうか。あちらでは小さなバッグ以外、リュックのような大きいものはあずけさせられる。クラナーハ展では、子供は歩かせて、自分たちの荷物をつめたベビーバギーを押しながら鑑賞している親子がいた。クロークがあればあずけられる。ここで美術館の客にたいする気持ちがわかる。クロークならば、係のおじさんやおばさん、あるいはおねえさんとコミュニケーションができる。狭くて淋しいコインロッカーはだめだ。この看板には「大きなお荷物、重たいお荷物以外はお手持ちください」と書いてあるが、そんなに大きなコインロッカーはない。世界遺産の国立西洋美術館なんだからがんばってほしい。入り口にある、あのコルビジュエの建築のファサードに似合わないカギ付き傘置きは、クロークがあればなくせるじゃないか。六本木の国立新美術館は入り口に、エントランスより偉そうにしている紀章先生デザインの専用傘置き場がある。なんだあれは。
〈Person of the Year〉
大統領当選以来、烏の鳴かぬ日はあれどトランプのツイッターとニュースがない日はなし「TIME」誌のPerson of the Year(今年のひと)は、トランプ次期アメリカ大統領。写真のそばにPRESIDENT OF THE DIVIDED STATES OF AMERICA(アメリカ合衆国(UNITED STATES)ではなく、アメリカ分衆国(DIVIDED STATES)大統領)とある。
〈ちくま〉
筑摩書房のPR誌「ちくま」の表紙の絵とデザインが変わった。新しい表紙の絵は西村ツチカ君。私は彼のファンなので、これは嬉しいプレゼント。「ちくま」の表紙は、去年までが酒井駒子さん、その前が鬼海弘雄さん、その前は小沢昭一さんの写真、その前は林哲夫さんの絵。どれもよかった。デザインも、他の出版社のにくらべれば上等。しかし、新しいデザインはすっきりしない。本文デザインも同じデザイナーがやっているが、ぼんやり。新しいアイデアは思いつかないのか。本文デザインに対する提案が感じられない。編集者の注文が退屈だったのか、出版社のPR誌はこんなものだと考えているのか。こんなのでいいのか。実験する気はなかったのかな。古くさい。本文の文字の大きさが、これまでのものより小さくなっているのがなんとも不思議。
新表紙/去年表紙
新目次/去年目次
新本文/去年本文
一昨年までの表紙。まず林哲夫さんの絵。2010年12月号。「ちくま」のバックナンバーは、去年の夏にまとめて処分してしまったので、これしか残っていない。小沢さんのも鬼海さんも同じ。
小沢昭一さんの写真。カッコ内は本人のキャプションから。2011年4月号(こういう看板、貼り紙が好きで)8月号(十代目薩摩若太夫の説教節)、9月号(ホームレスのおじさんの愛犬)。私は小沢昭一さんのこのシリーズ嬉しかったのだけど、体調を崩されたので1年だけで終わった。
つづいて、鬼海弘雄さんの写真。浅草でのポートレートのシリーズ。表紙裏は、写真とは関連がない、本人の日記のような文章。2013年7月号と8月号。
〈西村ツチカ〉
その西村ツチカ君が、季刊「イラストレーション」3月号で特集されていた。「ビッグコミック3月増刊号」(年5回刊)から『北極百貨店のコンシェルジュさん』という連載が始まるので楽しみ。雑誌の彼の特集記事は、デザインも編集もインタビューもよくない。彼の漫画が掲載されているが、1頁に8頁分をつめこんで読みづらい。インタビューの本文の行間が広い。13Qで行送り22.5Hでほぼ二分四分。こんなにあける意味がわからぬ。レイアウトには理解不明な無駄なアキがあるし、行間をもう少し狭くすれば、インタビュー記事中の図版の扱いがもっと自由になる。
〈檀蜜〉
東京新聞連載のコラム「私の東京物語」シリーズ。壇蜜が担当した「東京ひとりっこ帳」全10回。不思議な文体。私の母が去年の秋に入院していた東京都健康長寿医療センターがある、板橋区大山のような町のことが書かれている。
〈三十歳でようやく実家から出て一人暮らしを始めると、孤独と東京の相性の良さに気づき、新たな東京の魔力に触れた。東京は孤独を自覚させ、充実させ、そして、「これでいいのかい?」と問題提起もしてくれる。東京は今も昔も年ばかりとって中身が追い付かない大人、齋藤支静加(私)をかくまう揺りかごでもある。〉
〈終電で三軒茶屋駅に到着し、さぁ帰ろうと自転車置き場を目指して歩いていたら、駅前のコンビニが明るく出迎えてくれた。深夜までこうこうと電気をつけて営業している理由が昔は理解できなかったが、その時目の前にコンビニがあり、「おかえり」と言われたような気がした。その瞬間が忘れられない。〉
〈エゴにまみれた買い物と言われようと、おまえみたいなやつがいるからペット業界は悪い方向へ行くと言われようと、私は責任をもって生涯この小さな灰色の猫(税込み六十五万円)に身と金と時間をささげることを中板橋の交差点で誓っていた。〉
〈熱帯魚も猫同様板橋区で見つけた。熱帯魚も板橋と世界を幸せにする商店街、大山ハッピーロードの付近にある熱帯魚ショップで購入する。〉
〈千川は豊島区だが、当時わが家から自転車で十分ほどの所に位置していたため、和訳すると「生活」そのものを表すようね大きなスーパーにはいそいそ出掛けたものだった。買い物に夢中になるあまり、その姿をうっかり激写され、買い物かごをぶら下げ佇む年増女の写真が「壇蜜、地味な姿だった」と週刊誌に掲載されたが、豆腐三丁買っただけで週刊誌の一ページを飾れるなど、ある意味光栄だ。〉
檀蜜のコラムに出てきた大山。東武東上線の大山駅付近の写真。彫刻は駅前にあった。手描きの看板。
〈出久根さん〉
冬休みに本の片付けをしていたら、単行本のデザインの参考にいただいた出久根達郎さんの本が出てきた。
『本と暮らせば』出久根達郎/草思社/2014年刊/四六判上製/平野甲賀装幀
出久根さんが書く本の話は面白い。荒川洋治さんが本について書くものと、どこか共通するところがある。二人のエッセイは本好きにはたまらない。1944年生まれで私の5歳上だ。「大読書家」(この本で出久根さんは司馬遼太郎をこう書いている)で博覧強記。
『本と暮らせば』は「日本古書通信」に2009年から2014年まで連載されたものがメイン。ひとつが3頁。
〈中学を卒業すると上京し、古書店に勤めた。古書店は本を読むのが仕事である。売る者は、買う客の数倍、読まなくてはならぬ。満腹だからといって、食うのをやめてはいけない。しかし面白いことに、本は食えば食うほど、更に食い気が増し、とめどがない。食べすぎて、お断りが出ることはない。〉
〈盧花はその文学より、出版史からの研究が必要な作家と考えている。印刷や造本も研究すべきだろう。先の『日本から日本へ』は、わが国の作家では珍しく活字が横組で(英語が多用されている正に違いない)、「何故 もっと 咲いていない と 梅を 責めやうか?」と読点の無い文章(入るところもある)、そしてフランス装の妙な(?)本である。〉
一茶の日記について書かれている。
〈一茶の自筆日記『七番日記』八月のくだりに、「有名な」記述が連続する。「八日、夜五交合」を口切りに、十二日は夜三交、十五日から二十日まで連日「三交」、翌日は「四交」という工合である。この数字がセックスの回数なのかどうか。とすれば、なぜ、突如、このような秘め事を明らさまにしたのだろうか。(略)一茶は自分の日記が他人に読まれることを知っていた。句日記だから、当然である。読むものは、一茶の精力にびっくりする。それを計算に入れていた。あんな年寄りが、と誰もが見た目と実体の違いに、唖然とする。それを想像して、ほくそ笑む。これが「五十聟」を冷やかした世間への、一茶一流の復讐だったのではないか。〉
『幕末明治 異能の日本人』出久根達郎/草思社文庫/2015年刊
この本をデザインするときに、『本と暮らせば』をいただいた。二宮金次郎、幸田露伴と話がつながっていき次郎長まで登場、かたいタイトルからは想像出来ない内容。新聞連載なので、1頁ずつで話がすすむ。
『隅っこの昭和 モノが語るあの頃』出久根達郎/草思社/2015年刊
これも私がデザインしました。絵は南伸坊さん。けっして「隅っこには置けない」コラム集。これもおすすめ。
〈年賀状〉
11月から肺炎で入院していた母が、年末に他界した。満91歳。大正14年生まれ。昭和の年号と同じ歳。去年は昭和なら91年になる。天寿を全うしたといってもよいか。年賀状は中止。用意していた絵柄だけ紹介する。家の中にあった鳥を集めた。入れられなかった鳥たちもご紹介。うちにはこんなに鳥がいた。針金の烏は、田中靖夫さん作。鶏は石巻で買った仙台張子(たかはし・はじめ工房)。
〈ダイアリー〉
愛用している「REDSTONE DIARY」の2016年の最終週の日付、なんと12月28日が抜けていた。10年以上使っているが、こんなことは初めて。2017年のテーマは「TIME」。3月にスタインベルグの絵がある。これには、天気とその日の予定とウォーキング(2キロ以上)などの記録。
〈カレンダー〉
1月のカレンダー。1999年の2月に、バーミンガムのドッグショーに行ったときに会場で買ったピンバッヂ。National Canine Defence Leagu(現在はDogs Trustになっている)という、1891年から活動するイギリスの犬を保護する団体のもの。
〈金森幸介ライブ〉
金森幸介君のライブが、2月19日に東京でもある。2015年の「Circle Games Tour」が2017年にもどってくる。松田ari幸一さん、斉藤哲夫さん、幸介さんの三人。今年はムーンライダースの武川雅寛さんが参加する。
〈タイポグラフィセミナー〉
明日、1月21日(土)のタイポグラフィセミナーは私がゲストです。ブックデザインについて小宮山博史さんと対話をします。まだ、お席に余裕はあります。ぜひ、おいでください。森英二郎さんがポートレートを描いてくれた。年をとりました。
今日の一曲
Fool’s Paradise/Sam Cook