金森幸介歌詞集『心のはなし』

同い年の橋本治さんが逝ってしまい、そのことを書こうと思いつつブログをさぼっていたら、先週、昔の友人が亡くなった。私より1歳下の寅年。もう20年以上会っていない。いつも心の中によく切れるナイフを潜ませているような奴だった。実際にナイフをポケットに忍ばせているのを見たことがある。彼がそれを使うことはなかっただろう。とても頭がよかったのに、彼がさわるものは最後には壊してしまう。話がおもしろく、機転がきいてひとに好かれた。いろんなところに顔を出して、気に入られてはさまざまなことを手伝っていた。本当はなにをやりたかったのか、今はもう訊くことができない。いまさら訊いてみたところで一笑にふされるだけかもしれない。ひとの評価は、私ひとりの見方ではきめられない。私が感じているのは、彼の小さな一面にすぎないであろう。ひとはひとが見るよりもっと多くの側面を持っている。冥福を祈る。同世代のひとが逝くとなんだか急かされているような気になる。

 

去年から、いくつか私家本をデザインした。一番最新は、金森幸介歌詞集『心のはなし』。彼は来年でデビュー50周年。本人自選の30曲の詞に、森英二郎さんが描き下ろしの版画をつけている。去年5月に金森君に会ったときに頼まれた。森さんに絵を描いてもらって三人で。森さんにはすべて新作でなくてもよいと(金森君については、これまで折りにふれ描いているストックがある)相談したが、30点のオリジナルをそろえてくれた。この本は金森幸介の歌詞集でもあり、森英二郎の版画作品集にもなっている。

 

IMG_5664_表紙_1

 

頁サイズは正方形の200ミリ×200ミリ。森さんが描いた絵の天地左右の比率が自由だからである。判型はもう少し小さめがよいかもしれないと思ったので、在阪の金森君に東京まで来てもらって、人形町ヴィジョンズギャラリーで本文のレイアウトを一緒に見て頁順と判型を三人で相談した。アリちゃん(松田幸一さん、日本のトップハーモニカプレイヤー。彼の新作CD「Amazing Melodies』は森さんの絵のジャケット)が、幸介君に会うために来てくれた。最初は、みんなが小さい判型がよいと思ったが、アリちゃんの大きい判のほうが絵本みたいでいいねの一言で、私が最初に考えた200ミリに決まった。

 

amazing melodies

 

表紙は布張り。布は赤と紺2種で250部ずつ。型押しをして、文字と絵を貼付けた。森さんは毎年、年賀状を200枚ぐらい手刷りの木版画でつくっているので、木版画の原画を500部に貼ることを提案した。本文のような多色刷版画ではなく、モノクロで。手彩色もあるかなと冗談を言ったら、本当に版画に手彩色されたものが仕上がってきた。表紙には、最初別案もあったがボツにした。

 

IMG_5680_表紙別案

 

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森さんの版画にあわせるには、オフセットのデジタルフォントでは味がない。八丁堀にある弘陽という印刷所の三木さんが活字をひろって組んで、版画と同じ和紙に活版で刷ってもらった。活字は岩田の明朝体、表1のタイトルは三号、名前は四号、行送りは二分四分。表4の歌詞は五号、送りは全角。いずれも字間は四分アキ。

 

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八丁堀の弘陽の三木さんの工房には三回通った。一度目は内容を説明して依頼し、指定を渡す。二度目は見本刷りをいただき、和紙の見本と紙取りを打ち合わせ。三度目は、三木さんの指示でカットした和紙を持って行く。足を運んで活版の刷りの相談をするのが、若いころにもどったようで楽しかった。
最初は、このところ三回、私の名刺を作ってもらっている、京都の十分屋さんにお願いするつもりだった。名刺を頼んでいるのは、ここのハイデルの印刷機がかっこいいから。名刺は漢字だけなので、かなのまじった活字の刷り見本を送ってもらった。日活系かなの形が気に入らなくて、寄り引きもわるかった。都内でやっている活版屋さんをネットで探して、岩田の活字をそろえている弘陽さんを見つけた。

 

弘陽

 

布張りと型押しタイトル貼りつけのヒントは、「Irving Penn Portraits」(National Portrait Gallery、London/2010)とMaira Kalman, Daniel Handlerの3册シリーズ「Girls Standing on Lawns」「Hurry Up and Wait」「Weather, Weather」(MoMA/2014, 2015, 2016)。

 

IMG_5662_参考_1

 

IMG_56632_参考_2

 

見返しの紙はファーストヴィンテージ。前後の色を変えている(前はアップルグリーン、後はイエローオーカー)。本文の用紙は、こったものにしないで上質紙。これは、連続セミナー「明朝体の教室」のために毎回作っている冊子(既刊二号)の影響。上質紙で十分でだと思った。

 

IMG_5668_前見返し

 

IMG_5669_後ろ見返し

 

本文は、絵と歌詞にあわせて、いくつかの書体に変えた。ふつうの詩集なら、本文の書体は同じもので組まれる。見開き単位で絵と歌詞が完結するように考えてみた。その変化がうるさくなるかと思ったが、やってみると詞の言葉と絵が素晴らしいので気にならない。二人の力だ。歌詞は横組と縦組のを混在させている。彼の歌には欧文が入った詞がたくさんある。それらはヨコ、和文だけのものはタテ。偶然にもほぼ同数だった。
前後に2頁白の遊び紙。頁構成がうまくいった。本文最初の「心のはなし」へ行くまでに、13頁ある。遊び紙の白2頁、幸介のモノクロポートレート版画(裏白)、ハーフタイトル(裏白)、メインタイトル(裏白)、目次タイトル、見開きの目次、次の見開きの右に「たとえば」の歌詞の一部、左は白、そして本文、まず絵から。見開きでは絵と歌詞の位置を固定させずにデザインした。絵をノドで二つに割りたくなかったが、三点だけ歌詞がながいものは、絵を見開きの中央に置くことになった。「Life Goes On」「地平線」「P. S. Peace and Love」。歌詞の頁はところどころ白地ではなく色の頁も作った。

 

IMG_5672_ポートレート

 

IMG_5673_目次

 

IMG_5674_たとえば抜粋

 

IMG_5675_心のはなし

 

IMG_5676_life goes on

 

IMG_5677soul mate

 

IMG_5678たとえば

 

この本の森英二郎さんの絵の展覧会を、人形町ヴィジョンズで開催した。森さんの久しぶりの個展。明日の土曜日が最終日。このあとは、大阪の曽根にある「カフェ タンネ」で5月3日(金・祝)から19日(日)まで、同じ展示が開かれる。会場で木版画と本を販売している。

 

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今日の曲は、一曲ではなく、この『心のはなし』の全30曲。ほとんどがYouTubeで検索すれば聴けるはず。すでに、この歌詞集発売記念ライブツアーの映像もあがっている。