セミナー、版面その2、「一葉と芙美子」など

6月7日土曜日、イラストレーションセミナー3回目。ゲストは、いつもインタビュアー役をお願いしている南伸坊さん。それで南さんにインタビューするのは、70年代からおつきあいがある、作家の関川夏央さん。梅雨入りの大雨のあと、弱まったがしとしと降る雨にもめげず盛況だった。有料入場者76人(予約84人、キャンセル17人、当日受付9人)。関係者もいれて80人をこす。関川夏央さんの仕切りで順調な進行だった。

 

挿絵、イラストレーション、イラスト、の呼称の話題が出た。このブログでは、イラストレーションという語は使わず、〈絵〉にしている。私はこれまでイラストレーション派だったが、最近は、イラストと呼んでもいい絵があると思うようになった。個性を売り物にしているのに、類型化した表現に埋没し、創造性に欠けた絵はイラストでもいいのじゃないか。こういう区別はよくないかな。

 

「小説現代」で表紙と目次、企画頁、エッセイの頁以外に、小説の扉もデザインすることに決まったとき、当時の編集長の市田さんは、エッセイの絵は〈イラストレーション〉、小説の扉絵と挿絵は〈画〉にした。私はすべて〈絵〉でよいと思ったが、受け入れられなかった。いまだにこの〈画〉がわからない。挿画の〈画〉かな。今回のセミナーに、現在の編集長の佐藤さんが来てくれていたので質問すればよかった。この先、小説誌の編集長をゲストにむかえる回があってもよいかもしれない。

 

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そういえば、新聞小説の挿絵は〈画〉だ。画ってなんだろう。

 

懇親会で、南伸坊さんや親友のマンガ評論家の村上知彦君と話していて、彼がアニメーションをアニメと呼びだしたのは〈テレビ・アニメ〉からだろうというので、私はひょっとしたらイラストは〈イラスト・マップ〉から始まったのではないかという仮説をだす。南さんも「そうかもね」とうなずく。

 

版面 その2。

 

福原麟太郎著の『人間・世間』1969年、暮しの手帖社刊。「暮しの手帖」の連載を単行本にしたもの。函入り(左右が本体より5ミリ長いのはなぜだろうか)、上製(薄いボール紙)、四六判変型(128ミリ×180ミリ)。本文用紙は風合いのある上品な柔らかい紙。頁を開くのが気持ちよい。『メリ・イングランド』といい、小さな判型は著者の好みか、花森なのか。

 

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函入りなので、ジャケットはなしで表紙のみ。函と表紙タイトルは同じデザイン、4色。色紙を貼り合わせた〈描き文字〉。下ぎりぎりに、著者のイニシャルが入った鍵の鉛筆画。表紙の用紙はうすいクリーム色でOKラシャに似た質感。

 

函と表紙のタイトル、表1は中黒なしで〈人間〉と〈世間〉が二行で天地を揃えている。しかし、背は縦組みで〈人間〉と〈世間〉の間に中黒がある。奥付には縦で中黒があるのでこれが正式タイトルだろう。二行にして揃いがよくないととっちゃうんだね。自由ですね。

 

表4の社名というか〈暮しの手帖版〉の位置がよい。サイズも大きくておおらかな感じがする。これも二行なので天地を揃えるために〈暮しの手帖社版〉としなかったのか。暮しの手帖社でもよいのに、暮しの手帖版としたのはどういうことか。

 

見返しは茶色、スピンも茶色、タイトルに使った色の1色にあわせている。花布は黄色。一枚遊び紙があり、本文扉につづく。本文扉はタイトルと著者名(苗字と名前の間が二分ほどあけてあるのは、ちょっと古いかな。ジャケットの背と奥付の著者名では、あけていない)が同じ大きさの28ポ。二つが同じポイントであるのと、左に寄せてあるのが、ほどよい緊張感。本文の割り付けといい、この扉といい、花森安治は巧い。目次も大きい活字ですっきり(12ポ、行間22ポぐらい)。しかし、目次のノンブルが大きすぎる。目次扉、目次見開き、装丁クレジットとつづく。

 

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デザインクレジットは〈装本・花森安治〉(ここの名前は字間があけてある。苗字と名前の間は他より少し広い)。

 

最初見たとき、ドロップキャップかと思ったら、小見出しを32ポイントで本文3行分に組み込んである。斬新だ。最近の本はこのような組版の遊びは少ない。三編ずつをまとめて改ページ。

 

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本文は、9ポ、行送り18.5(おそらく)、行間はかなり広いが、変型の判型とマージンの取り方が効果的で読みやすい。1頁42字×14行、柱なし(柱をなぜいれなかったんだろう)、ノンブルは9ポ(多分)でイタリック、本文1字アキ。大きく見える。目次の文字も大きいし全体に大きめがこの本の特徴か。

 

版面は、天からは21ミリ、小口までの距離は19ミリ、ノドのアキは21ミリ、地までは27ミリ。本文はぶら下がりなし。

 

著者が冒頭で、夏目漱石の『草枕』の、有名なはじまりの文章「智に働けば角が立つ。情に棹させば……」を彽徊趣味と文句をつけているのが面白い。

 

あとがきは文字の大きさを8ポに下げて、思い切り天をあけてある。このアキがなかなかよい。奥付はいつもの暮しの手帖スタイル。文字は10ポで本文より少し大きい。大小の差はつけていない。

 

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6月18日から、阿佐ヶ谷美術専門学校のギャラリー、人形町Vision’sで霜田あゆ美さんとくぼあやこさんの「一葉と芙美子」展が始まる。年に二回、テーマをきめて二人展を三年続ける。それの最初。私がお手伝いしている。21日の土曜日は、関川夏央さんをゲストに一葉と芙美子について絵描きさん二人をまじえてのトークショー。みなさん、ぜひおいでください。

 

Vision’s presents Illustrator’s Gallery Vol.1「一葉と芙美子 霜田あゆ美+くぼあやこ」
http://www.visions.jp/ex/3168.html

 

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今日の一曲は、If You Don’t Know Me By Now/Harold Melvin & The Blue Notes