ビリー・ホリデイ、金麦

俳人の高山れおな君にメールで、前回のブログ更新のお知らせと一緒に暑中見舞いを送ったら、こんな句をいただいた。

 

カレー喰ふ汗に夢の世歪み見ゆ

 

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先週の『東京面白俱楽部』の活字書体について、小宮山博史先生からこんな感想が来た。

 

〈岩田のゴシックは何かをもとにしたかもしれませんが、まったくのオリジナルのようにも感じます。「お」の造形は明朝のように手書きを意識した作り方で、他のゴシックにはありませんし、ゴシックの流れとは違うのが面白いと思います。モトヤの明朝は金属活字の品質のいきついたところと思っていますが、あまりに整理され過ぎて息が抜けずそれゆえ読みにくい。〉

 

先週の7月17日はビリー・ホリデイの命日(先週のブログのために用意していたのだが、サッカーの話に熱中しすぎた)。彼女が犬好きだとは知らなかった。「隔週刊CD付き・ジャズ耳養成マガジンJAZZ100年」7号に彼女と愛犬のMisterの写真が載っていた。『Mister and Lady Day』という絵本の紹介もしている。Vanessa Bratley Newtonの絵は子供向きで、少々あらっぽく、スタイルも新しくないが、犬好きにはほろっとさせらるシーンがある。そういえば、彼女のジャケットでチワワを抱いた写真があった。

 

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私が10年以上使っているRedstone Diary(これには、主に起床時間と天気と予定を記す)の先週の頁に、Frank O’Haraがビリー・ホリデイに捧げた詩が載っていた。この詩人は知らなかった。作家、詩人、批評家で、MoMAのキュレイター。New York School(50年代から60年代の抽象表現主義)をリードした。40歳に事故で夭折。検索すると誰かがブログでこれを日本語に翻訳している。ビリーのための詩だから少し訳すつもりで、参考にこれを読んでみた。間違いもあるし、不明な箇所は適当にしてあるので、なんだかわかりにくい。詩はむずかしいものだ。

 

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タイトルのThe Day Lady Diedはビリー・ホリデイの愛称Lady Dayにかけている。レスター・ヤングが彼女をこう呼んだとか。

 

ネットでもっと探していたら、アメリカの先生や学生向けの英語のサイト〈Shmoop We speak student〉でこの詩の詳しい解説を発見。2行ずつ詩の意味を詳細に分析している。それは、こんな具合(すみません、私のつたない訳をつけます)。

 

Line 1-2

 

(まず、1行目と2行目)

 

It is 12:20 in New York a Friday

three days after Bastille day, yes

(12時20分、金曜日、ニューヨークバスティーユの日の三日後、そうだ)

 

(以下、この2行の解説だけでこれだけ費やしている。欧文の前の中黒はサイトの体裁に似せた)

 

・ The poem begins like a police report, with the time and date.
(この詩は警察官の報告のように、時間と曜日で始まる。)

 

・ The speaker drops the setting in our lap and says, “Here’s the setting. This is when and where the poem is set. ”Thanks, Frank.
(書き手は、この詩の場面を読み手に託す。そして言う「ここに場面がある。これがこの詩の、いつ、と、どこ。」ありがとう、フランク)

 

・ O’Hara wrote this poem on his lunch break, and it’s already 12:20pm, so the speaker is narrating the time literally right before the poem was written. It’s Friday, so he might be looking forward to the weekend and not too worried about getting back to work immediately.
(オハラは、この詩をお昼休みに書いている。すでに12時20分、書き手は実際の時間を、詩が始まる前に告げる。金曜日、彼は週末を楽しみにしながら、すぐに仕事に戻ることなどあまり気にしていない。

 

・ The speaker provides the date in an off-hand manner: it’s three days after Bastille Day.
(書き手は、その日のことを軽く告げる。バスティーユの日の三日後だと。)

 

・ Being total Francophiles, we know that Bastille Day is like the French version of Independence Day. It celebrates the liberation of the Bastille prison in Paris in 1789, a pivotal event at the beginning of the French Revolution.
(大のフランス好きなら、バスティーユの日のことはフランス版独立記念日だとみんな知っている。フランス革命初期の重要な出来事、1789年のバスティーユ監獄の解放を祝う日である。)

 

・ We learn two things from the casual mention of Bastille Day. First, it must be July 17, because Bastille Day is always July 14. Second, our speaker seems to be a hip intellectual type, since he’s keeping track of French holidays.
(このバスティーユの日を、さりげなくふれることから二つのことがわかる。まず、その日が7月17日であること、なぜならバスティーユの日は常に7月14日だから。二つ目は、この書き手がヒップで知的なタイプだということ、というのはフランスの祝日を知っているから。

 

・ The last word of line two is “yes.” It’s as if the speaker is thinking fast and going back to review what he just said. “Is that right? Three days? Yes.”
(2行目の最後の言葉「そうだ。」書き手が素早く詩句を振返っている。「正しいよね? 3日? そうだ。」)

 

・ It also like a flashy celebrity news reporter trying to drum up excitement. “We’re here outside Mann’s Chines Theater in Los Angeles, and, yes, the stars have come out tonight!”
(これはまた、派手な有名レポーターが熱気を盛り上げるのに似ている。「今、私はここロスアンジェルスのチャイニーズシアターの前にいます、そうです、スターたちが今晩ここに集まります。」)

 

このあと、こんな風にずっとこの詩を2行ずつ説明してくれる。

 

メトロで見た「金麦」の窓上広告。〈金麦の夏が、やってくる。〉の字詰めが気になったのだが、書いているうちに、理由がわかると変な気分になった。この項、私の早とちりであほらしいので、削除しようと思ったが載せておく。

 

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日本語の活字(今やほとんどがデジタルだが、活字と呼ぶ)は、正方形の枠の中(仮想ボディ。金属活字の実体のあるボディにかわるものとして)にそれぞれの文字が作られている。日本語の文字をベタ(字間ゼロ)で組むと、漢字同士の間は仮名と仮名より狭くなる。漢字と漢字、漢字と仮名、仮名と仮名では文字間のアキが違う。仮名と仮名の間隔は漢字より広くなる。それは、仮名の形のほうが漢字よりはばらつきがあるからだ。

 

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(漢字と仮名の比較、仮想ボディと文字。黒の枠が仮想ボディ。オレンジの線は実際の字幅。)
見本の書体は字游工房の游明朝体Rを使用

 

だから仮名は四角の枠の中で、その文字によって左右や天地のアキがちがうので、それぞれの組み合わせによって、漢字よりは字間がそろわない。分かりやすい例なら、拗促音(小さい〈よ〉や〈つ〉など)と大きい文字(並字)との間隔。ふつうの仮名と仮名よりもさらにひろくなるのは当然だ。

 

この広告のコピーで気になったこと。〈金麦〉のあとの行は字間が広い組み方。最初の2文字は字間ベタ、残りは四分ほどのアキに見える。ふつうなら全体をアキ組にする場合は、漢字仮名もふくめて見た目でバランスよく字間を調節する。そんなことを考えながら車中で広告をながめていた。

 

〈金麦〉が他より字間が狭いのは、麦の模様の中に入れたかったからだ。しかし、次の〈の〉は右の麦にかかっているのに。ああ、金麦と麦の絵柄はロゴでセットなのね。それに〈の夏が、やってくる。〉を字間をあけて足しただけか。それで残りの文字の字間をあけるというのはどういう効果? そのために1行の中で組み方が分裂している。そうなのね、つまらない。そんなのありですか。まあ、考えたら悩ましいけど。そんな無理して、のこりのコピー文の字間をあける必要があったのかな。なんだか、頭の中がぐじゃぐじゃになりそう。

 

つり革が邪魔をするので、わかりやすいように写真を撮り分けたが、こりゃ字間のことを語るべきことじゃないのね。これを1行の文章と見るのが間違い。この書体は〈ZENオールド明朝〉をもとに加工したようだと、鳥海修さんと岡澤慶秀さんから教えてもらった。ところで金麦はビールじゃないのね。

 

例のサッカーの元代表監督がBSで、ワールドカップ・ブラジルのとても感傷的な報告をしていた。テレビはどうしてこうなるのだろう。プロなんだから、もっと冷静な分析はできないのか。いちいち感動したり、落胆してくれてもしかたない。詠嘆調にすぎる。浪花節かよ人生は。そんなに単純でいいのか。新聞で、寝不足だという著名なご老人に、W杯のインタビューをしていた。こちらの先生も感情的。そんなんじゃよくわからん。サッカーはワールドワイドなコマーシャリズムの直中にいるんでしょう? 国家もまたそうでしょう?

 

Bobby Womackさんが唄ってるじゃないですか。「コマーシャルって、なんなんだ」「音楽は音楽だ」って。

 

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芝山幹郎さんから新刊『今日も元気だ映画を見よう 粒よりシネマ365本』(角川SSC新書)を送っていただいた。私は芝山さんのファン。肩書きは翻訳家で評論家、詩人。大リーグにやたら詳しい。「週刊文春」に毎週、映画の星取り表〈Cinema Chart〉が載っている。以前は、おすぎもこの星をつけていたので、二人の星とコメントをくらべて面白がっていた。短いけれど、芝山さんのコメントを読むのが楽しみ。「週刊文春」を買ったらまずここを読む。最新刊はすごいタイトルだけど、読み出したらやめられない。ひとつだけ不満を、監督索引がほしかった。

 

今日の一曲はビリー・ホリデイ。昔、20年以上も前に雑誌のコラムで誰かが(Esquireか日本版の「エスクァイア」だったかな)、彼女ならこれだと書いていた。

I Cover The Waterfront/Billie Holiday