つげ義春

またまたサントリーの中吊り広告。ハイ&カラだって。〈&〉が小さく虫みたい。ハイボールの〈ボール〉とカラアゲの〈アゲ〉が、小さくそれぞれの頭の二字のしたにそえてある。パッと見は〈ハイカラ〉。古いことば。今どき使うのかな。大阪弁で「ハイカラやな」というのは生きているはず。そう読ませたいのかな。新しいことばにしたいのか。井川遥さんの写真は前回のほうがいい。

 

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寝る前に(本を読みながらでないと眠られないから)読むものを探していて「本の雑誌」をめくっていたら、沢野ひとしさんの連載がいつのまにか中国の話になっている。ずーっと昔、80年代と90年代はこの雑誌を毎月読んでいた。書評好きだから。とんとご無沙汰していた、「本の雑誌」を去年あたりからまた読みだしている。表紙のデザインは和田誠さん、絵は沢野ひとしさんとかわらない。すごい雑誌だ。ただし、読むのは巻頭の編集長のコラムと特集の一部、津野海太郎さんの連載ぐらい。書評は読まなくなった。8月号のブックオフの特集はびっくり。ブックオフも本のジャンルのひとつなんだ。ブックオフ全軒制覇しようとしているひとがいる。私はブックオフではろくなことがない。しばらく前に、店内で大きな声で携帯で話しているじいさんと喧嘩してからは、のぞくのをやめにした。

 

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沢野さんの連載は、話が今年の中頃から北京にうつっている。実は、私も北京が好き。さかのぼって、床のあちこちに散らばっている本の間のバックナンバーを探して読む。特別なことを書いているわけではないが感じがよい。

 

私は「芸術新潮」2008年8月号の北京特集の取材について行って、8日間ほど滞在しただけだがここを気に入ってしまった。作家の南條竹則さんに、美味しい店を案内してもらったことが大きい。ちょうどオリンピック前で、建設ラッシュだったが、昔の風情が残っているところがまだまだ多くあった。頤和園や天壇公園も好き。80年代から90年代にかけて、三度ほど上海に行ったが、ここも好きな街。そのころ、上海好きのひとから北京の悪口をさんざん吹き込まれて、見たこともないくせに勝手に北京嫌いだった。沢野さんの10月号はチャイナドレスの話。今、私たちが見るチャイナドレスはそんな古いものじゃなく、イギリス人の洋服屋が20世紀頭あたりに原型を作ったんだとか。なんだか、金属活字の漢字の歴史と似ている。連載は、あいかわらずの沢野節の挿絵で北京の街角のスケッチがたくさん見られて嬉しい。

 

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ちょっと紹介が遅くなったが、トンボの本の『つげ義晴 夢と旅の世界』が出来上がった。売れ行きがよいらしい。この本のデザインを担当した。

 

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「芸術新潮」の今年の1月号をベースにした単行本だが、マンガ原画もつげさん本人撮影の写真も、それより増やしている。つげさんの写真はとてもよい。まとまった写真集を誰かに作ってほしい。マンガの単行本をたくさんデザインしていたことがあるので、「芸術新潮」で漫画家の特集をするたびに、原画を撮影して掲載することにはずっと疑問があった。そのことを編集者に対して口にしていた。マンガは印刷物になったものがすべてで、原画を見せても意味がないと思っていた。古く変色した原画はマニアが喜ぶだけじゃないのか。しかし、この本で見るつげ義春の原画は素晴らしい。これまでの考えをかえさせられた。細かいペンのタッチやベタの塗りの濃淡に、絵の味わいがある。濃淡をとばして印刷されたものにはない情感がある。

 

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雑誌のときもそうだったが、あらたに出来上がったこの単行本を読みながら、つげ義春の作品をもっと真面目にまめに追いかけて読んでおけばよかったと、後悔している。マンガでこんな表現をしたのは、あとにもさきにもこのひとしかいない。とんでもないひとだ。遅ればせながら、文庫化された作品集をあつめて読んでいる。初出時に雑誌に載ったもので読んでいるのもあるが、知らなかったり忘れている作品が多い。既読のものも、読みなおしてあらたにおどろかさせられる。

 

「芸術新潮」に載ったインタビューは感心したが、もう一度読んでもやっぱり面白い。

 

〈マンガは芸術じゃないとぼくは思ってますが、まあそれはいいとして、どんな芸術でも、最終的に意味を排除するのが目標だと思っているんですよ。〉

 

〈現実も夢も無意味という点で一致するのでシュルレアリスムもリアリズムも目指している方向は同じではないかと思えるのです。〉

 

〈「夢の散歩」は偶然出会った男女が泥のぬかるみの中でいきなり性交をする話ですが、そうなるまでの二人の関係や必然的な理由などはぶいて、ただ唐突な場面を即物的に描写しただけなので意味がないんです。そうすると意味を排除したシュルレアリスムのように夢の世界に似た印象になりますね。現実もあるがままに直視すると無意味になりますが、夢はさらに無意味を実感させてくれるので、リアリティとは無意味によってもたらされるのではないかと考えているのです。〉

 

この「夢の散歩」は、線を省略した絵がとても美しい作品。あらためて読みなおすと、つげさんのマンガはエッチなシーンが多い。「芸術新潮」のつげ特集も、この「とんぼ版」も編集した米谷さんにきくと、これはつげさんのサービスだとか。

 

つげマンガの文庫本。新潮文庫の二冊は平野甲賀さんの装幀(『新版 貧困旅行記」は新潮社装幀室)、ちくま文庫は間村俊一さん。どちらも上手なデザインだ。おっと、『貧困旅行記』の晶文社の元本は私のデザインだった。手元に見つからないので検索した画像で。

 

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ご近所のブック・カフェ「CAT’S CRADLE」で、10月12日(日)と13日(月・祝)でブックフェスがあります。お世話になっている「タイガー・ブックス」も参加しています。お時間のある方はのぞいてあげてください。

 

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今日の一曲はMy Lover’s Prayer/Otis Redding