猫は夜中に
安西水丸さんが亡くなった。タイガーブックスで手に入れた、水丸さんが装幀した本について追悼のために書くことにした。すると、むかし一度だけ水丸さんに会ったことを思い出した。私が東京で仕事を始めた84年か85年頃に、友人の仲原君(通称金太)が編集長の「季刊コミック アゲイン」の表紙のために安西さんを撮影している。夜だったことと、無口だったという記憶しかない。
それで、久しぶりに(16年ぶり)仲原君に連絡をとると、メールをもらった。「3号目か4号目かに出てもらいました。柴門ふみさんとご一緒でした。柴門ふみさんがファンだったんですね。撮影場所は歌舞伎町裏のラヴホテル街でした。ラヴホテル街で二人がぎこちなく寄り添っている絵柄だったと思います。確か「灯りがまぶしい」というタイトルでした。写真は風呂屋の煙突に登った飯村昭彦さんです。」
ブログを始めていないとこんなことはできなかった。仲原君の返事で、だんだん記憶がよみがえってきた。検索したら、「季刊コミック アゲイン」は4号で休刊。安西さんと柴門さんの写真は、第3号(85年2月刊。ということは撮影は前年の年末)の表4。表1はひさうちみちおさんの絵で私のデザイン。私は2号から4号までの表紙を担当している。そうそう、本文で安西さんと柴門さんの対談が掲載されたのだ。それで二人の写真を撮った。飯村君はうまい。
さて、『猫は夜中に散歩する』田中小実昌著、1980年刊、冬樹社、1200円。奥付に装幀者安西水丸とある。
四六判、上製。カバーは2色。BLと赤。大胆なデザイン。表1と表4に田中小実昌さんのポートレートらしい水丸さんの初期の絵。同じ絵柄なのに使い回しではなく、別に描いている。別丁扉も絵柄は同じで別。絵はシンプルでストレートで強い。ユーモアもあり、さびしさも感じる。よく似ているわけではないのに、小実昌さんの感じがする。マジックインキかフェルトペンで描いたのだろう。カバーの絵の線の途切れたところとバックの赤の区切りがいい味。
タイトルの描き文字は、手描きではなくたぶんカラートーンかパントーンをカットしたもの。別丁扉の絵を、本文の章扉に使ってI章~III章で左に移動していくアイデアが面白い。
本文は活版。版面はごく普通なのだが、目次と奥付は〈しまり〉があるデザインなので安西さんの手になるものかもしれない。第I章に挿絵が3点ある。まるで走り書き。水丸さんはヘタウマ派の前衛だったのだ。この本のすべての絵には、そのスピリットがみなぎっている。
もちろん、中身の田中小実昌さんの文章も抜群におもしろいことを付け加えておきます。本書のタイトルは、著者が翻訳したA. A. フェアの小説からとられている。85年に旺文社文庫で文庫化されている。絶版。
今日の一曲はこれBaby, It’s You/Curtis Mayfield